未来会計~森山一行 公認会計士事務所

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2019.11.01

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近い未来に目を凝らす~中小企業の管理会計01

当事務所のテーマ、というか当事務所の売り物は、「未来会計」と銘打っております。
会計で集めた過去の数字を未来へ生かす、という話です。
具体的にどうするのか。その提案です。まずは、近い未来、例えば3,4カ月後を考えましょう。
なんだすぐ先の話じゃないか、と思われるでしょう。さすがにそれくらいは大体見えている、考えるまでもない、と。
確かに、3,4カ月先の自社ビジネスの姿が、全くイメージできません!という社長はいないと思います。
しかし、ぼやっとはイメージできる近未来の姿を、具体的に数字を積み重ねて組み立てると、それまではただのイメージだったものが、次の行動を決める具体的な指針へと一変します。
銀行さんに言われるから、税理士のセンセイに試算表を作ってもらって、それを見もせず銀行さんに渡すだけ、なんて社長もいらっしゃいます。そりゃ勿体ない、という話です。

目次

3,4カ月先を数字で組み立てる。その効能。

本稿では、直近の試算表、特に損益計算書(いわば会社の成績表)を月ごとに並べてみましょう、という話をします。
本稿でご紹介する数字のチェックを定期的に(できれば毎月)することで、このような効能が期待できます。

・効能1 会計処理を経た、それなり以上の精度を持つ数字に基づく現状把握が可能となる。
・効能2 その精度に基づく、近未来(3~4カ月先)の予測が可能となる。
・効能3 会計数値の理解が深まる。
・効能4 銀行と、会計数値に基づく話ができるようになり、銀行との信頼関係が醸成される。

これくらいにしましょう。多すぎるとうさん臭くなっていきます。でもあと4つくらいはありそうな実感です。

まずはやってみよう~並べて、眺める

月次実績を横に並べる

まずは手を動かしてみましょう。直近の試算表を用意してください。損益計算書部分を月ごとに並べます。「損益計算書の月次推移表をくれ」と会計担当者に言えば、作業しやすい表が入手できると思います。それができない場合、直近の試算表を月ごとに用意しましょう。
そしてエクセルを開いて、数字を並べていくのです。事業規模によりますが、千円未満切捨てで入力してよいでしょう。すると上図のようになりますよね。
そして並んだ数字を眺めます。無心に眺めても眠くなるだけなので、「売上高の変化と連動しているか」という観点で眺めます。
すなわち、上図の例で言うなら、
②仕入は、売上高とかなり連動して動いています(売上高の半分が仕入である、すなわち原価率50%という関係が維持されています)。
⑤給料や⑦光熱費は売上高の動きと大体平行しているようですが、比率は不明です。
④役員報酬や⑥家賃は、売上高の動きに関わらず一定です。
⑧手数料は、売上高の動きと全く無関係に動いているように見えます。
こんな感じで、数字それぞれの動き方の感触をつかむのです。くどいですが、「売上高の動き」との関係という観点で眺めてください。

まずはやってみよう~未来を並べる

実績に基づき予測を並べる

前項で掴んだ数字の動き方に基づき、将来の数字を並べましょう。例えば上図の赤字部分のように並べました。
①売上高がどうなるか、社長が一番ご存知でしょう。この事例の場合、例年4~6月は売上が低迷するんです。今年も同様であると予想されるんです。なので、昨年同月の実績値を会計担当者に聞いて、似たような数字を入れました。
②仕入について、前項で掴んだ感触によれば、売上高の50%が予測されるので、その通りに入れました。もしも特段の事情(4月以降、特定の大きな仕入先からの値上げに応じざるを得ない、など)があれば、それに基づき、並べる数字を加減します。
④役員報酬と⑥家賃は、事情が変わらなければ、同額を並べればよいです。役員報酬の金額はわしの意志一つでどうにでもなるんじゃ、という場合でもひとまず同額を並べて、報酬の変更について必ず顧問税理士と相談してください。お上(税務署)との関係で色々ルールがあるのはご存知の通りです。
⑤給料は正社員の固定給部分があるので、売上高の動きほどは下がりません。ここで、精度を追求するため給与の予測値算定を給与計算担当者に依頼する、とかは、ひとまずやめましょう。精度よりも数字を素早く知ることのほうが大事です。
⑦光熱費は、金額がそんなに大きくないので、過去の推移をみて、あてずっぽうでいれました。
⑧手数料は、実績値の動き方では予測がつかないので、会計担当者に事情を聴きました。3月に金額が突出しているのは、税理士のセンセイに確定申告料を払ったからだそうです。予測に対しては考慮しなくてよさそうです。なので何となくそれっぽい数値を並べました。
実際の会計科目数はこの例の3倍くらいはありますし、その予測値を一つ一つ作ろうとすると、チンプンカンプンでほっぽりだしくなるでしょう。そこはぐっとこらえて、将来に目を凝らそうとする意志を持つことが重要です。

作業は以上、あとは予測値を眺め、指針とする

作業は以上、それだけであります。それでも慣れないうちは手間がかかると思います。さて、改めて予測値を眺めます。
実は、この事例の社長の、近未来に対してのイメージはこんな感じだったんです。
「今年も春がやってきたなあ。春は売上が落ちるんだよな。だから夏になると資金が苦しくなるんだよ。去年は夏に300万会社にいれたんだよな。でも今年の1~3月は前年より売上多かったし、夏に入れる金は去年ほどにはならないよなあ、云々」
しかしこの予測値を眺めるとぼんやりしていたイメージは極めて具体的になります。並んだ数字はこう語ってきます。「社長、4~6月で累計247万円の赤字です。夏の初めには、預金残高が今より2百万円以上目減りする公算が高いです。この資金の目減りを手当てするための具体策を考えてください!」
それに対して、例えば「好調だった1~3月のおかげで、現状手元資金は潤沢である。例年秋口からは再び売上増が見込まれるため、この2百万円の目減りは問題なく吸収できる」という判断であれば、「ひとまず特段の手当不要」という意思決定ができるかもしれません。
しかし、手元資金がそれを許さないなら、資金調達へ向けて動くべきでしょう。
あるいは、中長期的な観点で、「会社の仕組みが大きく変わらないなら、例年4~6月の減速が毎年2百万程度の資金マイナスをもたらす。しかしこの時期に手残り1百万程度の小粒の案件を獲得できるなら、資金マイナスを1百万程度に抑えることができ、その結果毎年同じ時期に資金手当てに奔走するという「夏の風物詩」から卒業できるかもしれない」ということが考えられるかもしれません。

この作業の前提

本稿で紹介したチェックの方法は、過去の実績値の動きを売上高の動きとの関係で把握しています。なので、次の事柄が前提です。

1.その月の売上がキチンとその月に計上されている
 →当たり前のことでは、実はありません。その月の売上というのは、その月にお客さんから入金頂いた金額ではありません。
  貴社が月末締めならば、翌月あたまにお客さんに送付した請求書の合計金額が、その締め月の売上高として売上計上されていなければなりません。
2.その月に計上された売上を作るための費用がその月に計上されている。
 →これも当たり前のことではありません。その月締めで請求された支払についてその月に費用計上されていなければなりません。
  また、人件費についても、末締め翌10日支払ならば、締め月に費用計上する必要があります。

例えば、貴社が会計処理を税理士事務所に一任していて、年に1回のペースで会計処理を行う契約の場合、限られた時間の中でそれなりの精度の処理をする必要上、毎月の売上や費用は預金通帳に基づいて(つまり締め日ではなく入出金日に)計上されることがあり得ます。
会計事務所との契約が、毎月会計処理を行う契約であっても、月次の処理に間に合うように請求書等の根拠資料が会計担当者の手元に届かなければ、例えば翌月入金額/出金額に基づき売上や費用を計上することになります。すると「売上は3か月にわたる分割入金だが、対応する仕入は翌月一括払い」の場合、入出金日ベースで売上や費用を計上すると、月ごとの売上の動きと仕入の動きが実態をずれます。結果的に、将来予測を間違えることになります。方針決定の前提が覆ります。
というわけで、近い未来に目を凝らそうとするなら、さらに言えば、近い将来をそれなり以上の精度で予測しながら経営の歩みを進めようとするなら、会計担当者あるいは税理士事務所との協力関係の中、実績の精度(売上と費用の月ごとの対応)を上げていただく必要があります。


最後に、使用上の注意など

本稿でご紹介した方法で資金状況まで予測する場合、売上計上月と入金日、及び費用計上月と支払日が、どちらせいぜい1か月程度である場合に有効です。
しかし、売上入金が数カ月にわたる場合、あるいは売上は末締め翌末入金だが支払は末締め翌々15日払いの場合など、月々の試算表の動きと実際の資金の動きに時間差が生じます。
また、銀行借入の返済など、損益計算書に乗らない項目の資金変動については、別途考慮しなければなりません。
なので、本稿の方法の発展形として、将来予測に基づく資金予定表を作成する必要があります。
それは次回のお話とさせていただきます。

最後に、この方法を貴社にて実施しようとするがなかなかスムーズにいかないということがあれば、ご連絡ください。メールで対応できる範囲で済めば、メールにてアドバイスさせていただきます。それ以上のお手伝いをご用命賜れば、そう致します(ニヤリ)。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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